【第5回】 終わらない静岡、消えたサングラス、そして「ガリガリ君」の奇跡

地獄の箱根越え(Day 2)を乗り越え、旅は3日目を迎えました。 今回は、サイクリストの間で「走っても走っても終わらない」と恐れられる魔の区間、静岡県横断の記録です。

結果から言うと、この日は120kmを走りました。 地図上の最短距離なら100kmほどですが、道に迷い、迂回し、峠を越えているうちに、気づけばそんな距離になっていたのです。

美しい景色と、ワーケーションならではの葛藤、そして地味ながらメンタルを削るトラブルの連続。 キラキラした旅だけではない、中年サラリーマンのリアルトリップをお届けします。

1. 【Day 3】 清水〜鷲津(実走 120km)

「平日の朝、ランドセルとサラリーマン」

朝8時前、清水のホテルを出発。 街を走り出すと、黄色い帽子をかぶった小学生たちが列を作って登校している姿が目に入りました。 「そうか、今日は平日なんだ」 昨日までの必死さで忘れかけていましたが、世の中は普通の月曜日です。 ランドセルを背負う彼らと、仕事道具(PC)を背負って自転車を漕ぐ私。 日常と非日常が交差する不思議な感覚の中、「私にも、仕事が待っているんだった」と苦笑いしつつ、ペダルを踏み出しました。

天気は晴。 ふと「三保の松原に寄れば富士山が見えるかも」と色気を出しましたが、空を見ると雲がかかりそうだったので断念。ひたすら西へ向かいます。

2. 自転車だから出会えた「静岡の色彩」

寄り道はできませんでしたが、旧東海道の景色は素晴らしいものでした。 道路のすぐ脇まで迫る、鮮やかな緑色の**「茶畑」。 漁港近くで天日干しされている「桜エビ」のピンク色や、「シラス」の白。 磯の香りと、お茶の香りが交互に鼻をくすぐります。

「新幹線なら一瞬で通り過ぎる景色だな…」 車や電車では決して気づかない地元の営みの中を、自分の足で走り抜ける。 普段は決して通ることのない街道を走りながら、これこそが自転車旅の醍醐味だと感慨深くなりました。

3. ワーケーションの孤独なランチ事情

しかし、旅には残念な現実もありました。それが「ランチ」です。 せっかく静岡に来たのだから、地元の名店で美味しいものをゆっくり味わいたい。 しかし、私には「仕事」という足かせがありました。

ランチタイム中でも、緊急のメールや電話が入るかもしれません。 「ガヤガヤした人気店では電話に出られない」「PCが開けるスペースがないと困る」 そう考えると、どうしても**「静かで、すぐに席に座れて、サッと出られる店」**を選ばざるを得ませんでした。

東海道のグルメを横目に、チェーン店で食事を急いで流し込み、パソコンを開いてメールをチェックする。 東海道の醍醐味を削ってしまっている自覚はありましたが、これがワーケーション旅のリアルです。

4. 静岡の「隠れボス」と、サングラス紛失事件

そして静岡県は、ただ長いだけではありませんでした。 薩埵峠(由比)、宇津ノ谷峠、小夜の中山…。 箱根ほどではないものの、地味に体力を奪う峠が次々と現れます。

事件が起きたのは「小夜の中山」でした。 登りで汗を拭くために外していたサングラスが、峠を下り終えた時には無くなっていたのです。 どこかに落としたのでしょう。 しかし、もう戻って探す体力も時間もありません。

「ああ、お気に入りが…」 再び強くなった日差しが目に突き刺さりますが、私は諦めて西へ進むしかありませんでした。

5. 猛暑のコンビニで起きた「小さな奇跡」

磐田市の「見附宿」近くのコンビニで休憩した時のことです。 梅雨入り前とはいえ、気温は30度近く。心も体も干からびていました。 私はたまらず、大人になってからはめったに食べない「ガリガリ君」を買いました。

店の前で無心にかじりつき、棒を見ると……そこには「あたり」の文字が。

「やった…!」 サングラスを失って、ガリガリ君(数十円)が当たっただけ。 計算すれば大赤字です。 でも、不思議と「まあ、いいか」と思えました。 この灼熱の中で引いた「あたり」が、なんだか神様からの「元気出せよ」というメッセージのような気がして、嬉しくなったのです。

6. 新井関所への未練と、鷲津の夜

その後も、ナビを使っているのに道を見失うなどのロスが重なりました。 何とか浜松市を抜け、浜名湖を越え、この日の最終目的地である「新井宿」に到着しましたが、時すでに遅し。

目標にしていた15時をずいぶん過ぎてしまい、楽しみにしていた「新井関所記念館」は営業時間を終えていました。 箱根の関所は越えられましたが、新井の関所は見ることさえ叶わず。

「これが旅のリアルか…」 仕方なく、私はその日の宿がある隣町、鷲津駅前のホテルにチェックインしました。 もちろん、この夜もホテルで残りの仕事を片付けます。

疲労、紛失、迷子。 散々な一日でしたが、ガリガリ君の「あたり」棒を思い出しながら、私は泥のように眠りました。 明日は愛知~三重県です。

(第6回へ続く)

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